猫の死

飼い猫のチャイロが先日死んだ。享年14歳。
かれは岡山の北部で生まれた。子猫の時に、当時妻が友達とルームシェアしていた部屋に、同腹の兄弟猫「シロ」といっしょにもらわれてきた。シロとチャイロなんて、ずいぶん投げやりな名前である。最初は正式な名前がつくまでの仮称で「白い方」「茶色い方」と呼ばれ、つぎに「しろいの」「ちゃいろいの」になって、みんなでよってたかって色々名前を考えたものの結局、船頭多くして最後まで良い名前がみつからず、そのままなし崩しに「シロ」と「チャイロ」に落ち着いた。いい加減だ。

この2匹、兄弟ではあるが性格はぜんぜん違っていた。シロの方は賢くて、プライドが高く、気難しい猫。チャイロは人なつこく、ちょっとお馬鹿なところがあり、人が何をしてもグルグルとのどを鳴らしてなされるがままであった。そのためシロは敬称をつけて「シロさん」と呼ばれて敬われ、チャイロの方は決して敬称をつけられることなく「チャイチャイ」と呼ばれて愛された。

そんな対照的な2匹にも共通点はあった。それは旺盛な食欲。世の中には特定の餌しか食べないお猫様がいるらしいが、うちの猫たちはおよそ猫の食えるものは何でもガツガツと食べた。ちょっと目を離すと人の食う物にまで手を出してこっぴどくしかられた。
妻の引っ越しによりルームシェアが解消されて、2匹はしばらく友人の家で暮らしていたが、その彼女が東京へ引っ越すというので、こちらへ引き取ることにした。それが2000年の5月。以来、9年あまり、一緒に暮らしてきた。
娘が生まれて猫たちがどう反応するかが心配だったが、なんとか慣れてくれて、昼寝の時に添い寝をしてくれるまでになった。娘が大きくなると毛を引っ張られたり、歩けるようになると追いかけ回されたりで大変だったが、もともと2匹とも温厚な猫たちなので、反撃するでもなく、迷惑そうに隠れ場所へ逃げていった。

大きな病気もしなかったチャイチャイだったが、死ぬ前の1週間ほどはすっかり食欲が失せ、大好きだった缶詰にもほとんど口をつけようとしなかった。猫がどのように苦痛を表現できるのかどうか、僕はよく分からないが、見ている限りでは苦しそうな様子も見せず、ほとんどの時間、大人しくただじっと寝ているだけだった。時々なでてやると力なく目を開いた。医者につれていこうかどうしようかと妻とずいぶん考えたが、苦痛が大きくないのであれば、そのまま自然な死を迎えるのが良いのではという結論に落ち着いた。
8月1日の夜、チャイチャイは眠るように息を引き取った。「いっしょに暮らしてくれて、ありがとう。チャイチャイはいい猫だったよ」と妻が何度も繰り返し声をかけた。二人で何度もなでてあげた。
亡骸は次の日、岡山の、妻の実家に埋葬した。

ちなみにシロさんはいたって元気です。絶対チャイチャイの方が長生きすると思っていたのだが、分からないものだ。