分子進化と分子系統学

分子進化と分子系統学

  • 「本書の目的は分子進化の研究に役立つ統計的方法を紹介し、実際のデータ解析においてどのように使用していくかを説明することにある。」邦訳で読めるのはとてもありがたい。

初めてのプログラミング

初めてのプログラミング

  • Rubyによるプログラミング入門。自分のRubyの勉強のためと、学生にプログラミングを教える必要に迫られたとき(きっと遠くない将来にそうなるだろう)のために。

戦う動物園―旭山動物園と到津の森公園の物語 (中公新書)

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系統樹思考の世界 (講談社現代新書)

系統樹思考の世界 (講談社現代新書)

  • 先日購入した三中さんの系統樹本を読了。全編興味深く読めたがとくに「アブダクション」に関わる議論は非常に腑に落ちたし役に立った。もうちょとだけ早く出版していただいていたらもっとうれしかったのですが(笑)。
  • というのは、このまえ(この本の出版前)、研究室のセミナーで系統推定法、とくに最尤法について説明する必要があって、どうやって説明すれば学生によく分かってもらえるか、結構悩んだことがあったからだ。我々の研究室は発生のラボなので学生は系統の話などには不案内だ。したがってまず系統を推定するとはどういうことか、という話から始めないといけなくて、結局次のような話をした。
  • 生物の系統発生のように過去に起きた出来事は、直接観察することもできず、実験で再現もできないので「何が本当に真実か」を知ることは人間には不可能だ。つまり生物の系統はつねに仮説である。しかし仮説の中には「とても確からしい仮説」から「ほとんどあり得ない仮説」まで、その「もっともらしさ」には大きな幅がある。そこでもしなんらかの基準を設けて、「ある仮説がどのくらいもっともらしいか」を数値化することができれば、仮説同士を数値で比較することができて、どの仮説がいちばんもっともらしいか、どのくらいもっともらしいか、を判定できる。
  • 比較するためには比較の材料となるデータが必要だ。たとえばいま目の前に複数の生き物の相同な塩基配列とかアミノ酸配列のデータのセットがあるとする。これは現に存在する「事実」だが、この「事実」がどのような進化のプロセスを辿って実現したのかという「真実」は、前に述べたように人間には分からない。この「事実」へ至る可能な道筋は非常にたくさんあり得るだろう。しかしいま手元にあるデータセットにもとづいて、それら多くの「可能な道筋=仮説」のうちで「いちばん尤もらしい道筋」を探すことはできる。それをやるのが系統推定で、最尤法はその方法の一つである……云々。
  • けっこう悩んでこういう説明の筋を考えたのだが、この本に書かれている「アブダクション」の概念を使えば、こういう種類の説明の見通しがすごく良くなるなあと思った。自分の頭の整理にもなった。
  • むかし趣味で科学哲学などをちょっとかじったときに、とくに論理実証主義とかポパーの科学論が、論理的な厳密性や明確な真/偽というのを非常に重く見て議論を組み立てていることに違和感を感じたことをおぼえている。現場の科学からはずいぶんかけ離れた議論だよな、と思った。「ぶっちゃけ、僕らがやってる科学って、そんなに厳密じゃありませんから!」と。それに比べるとアブダクションの議論は現場にいる者の目から見てもとても筋の良い議論に思える。「歴史」が関わる分野にいる者にとってはとくに。