• 研究室セミナーで論文紹介。今回はセントロメアの進化について話をした。
  • セントロメアは言うまでもなく真核生物の細胞分裂のときに染色体の正確な分配に必須の働きをする重要な構造である。重要なので、機能的には真核生物全体を通してよく保存されている。普通に考えると、そういう重要な機能を担う構造を作るDNA配列は進化的に保存されていて、あまり変化しないだろうと考えられるのだが、不思議な事にセントロメアのDNA配列は非常にバラエティに富んでいて、近縁の種でも配列が大きく違っていたりする。さらにそのセントロメアDNAに結合する蛋白質の方も、セントロメアDNAの速い変化に歩調を合わせるように速い速度で、しかもいくつかの例では正の自然選択を受けながら進化していることが分かってきた。このような「保守的な機能を担う構造をつくる要素が、非常に急速に進化する」という、一見パラドキシカルなことがなぜ起きるのか、という話だ。
  • キーになるのは、セントロメアが染色体のどの位置にできるかはDNA配列によって決定するのではなく、epigeneticなメカニズムで決まり、維持されている、という事実。たとえばヒトの染色体などでも、DNA配列の変化はなにも起きていないのに、いままでセントロメアがなかった場所に新しいセントロメアが出来てしまうというような現象が多数みつかっている。
  • もう一つの鍵になる知見は、雌性配偶子を作るための減数分裂において、セントロメアがマイオティック・ドライブの「ドライバー」として「利己的」に振るまい、互いに競争するという例が見つかって来たこと。卵などの雌性配偶子は減数分裂でできる4つの細胞のうち1つだけが生殖に使われ、他は捨てられてしまうので、その1つに入らなかった染色体は次世代に伝わらない。そこで競争が起きる(ことがある)。
  • これらの知見に加えて、最近のゲノムプロジェクトの進展などによってセントロメアのDNA配列が分かってくると、どうやらセントロメアにはトランスポゾンに由来する反復配列が大量に蓄積しているらしいことが明らかになってきた。これらの知見を総合して、セントロメアの急速な進化について、そのモデルを考えてみよう、というような話をした。
  • セントロメアをはじめとした染色体構造の変化は種分化につながる可能性があり、進化学的に面白いテーマだ。いままであまり勉強してこなかった分野だが、これを機会にフォローしていくつもり。